ノーブルホームカップ第26回関東学童軟式野球秋季大会の予選を兼ねた東京都新人戦は10月6日、旗の台クラブの4年ぶり2回目の優勝で閉幕した。大会2連覇中だった船橋フェニックスとの決勝は、開始から一進一退の展開に。70mの特設フェンスがない板橋区立城北野球場で、ランニング本塁打が5本も飛び出したが、パンチ力以外にも両軍の色と可能性がうかがえる熱戦だった。旗の台は11月23・24日の関東大会(茨城)と、来年7月の高野山旗(和歌山)に出場。準Vの船橋は来夏の阿波おどりカップ(徳島)出場権を得ている。
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
(写真&文=大久保克哉)
優勝=4年ぶり2回目
はたのだい旗の台クラブ
準優勝
ふなばし船橋フェニックス
■決勝
船 橋 20030=5
旗の台 20150x=8
※時間規定により、5回裏二死で終了
【船】前西、中司-佐藤
【旗】大野、豊田-遠藤
本塁打/佐藤2、高橋(船)、大島、柳(旗)
5年生主体の新チームの代となっても、東京都は変わらずハイレベル。群雄が割拠し、有能なプレーヤーも点在している。来年6月の全日本学童予選、翌7月の都知事杯も激戦必至だろう。この新人戦の推移と大一番の決勝は、そう思わせるに十分だった。
船橋は登録25人、うち5年生が21人。森重監督(下)は長男の代から指導者となり11年目の61歳
47都道府県で唯一、1000チーム以上が加盟する東京都では、4年生以下の王者を決めるジュニアマック(マクドナルド・チャンピオンシップ)という大会がある。この新人戦で地区予選を制し、都大会に出てきたチームの多くは、1年前に同舞台を経験している。
その王者・カバラホークスを1回戦で、準Vのレッドサンズを3回戦でそれぞれ下し、決勝まで駒を進めてきたのが、船橋フェニックスだった。1年前のジュニアマックは予選敗退も、5年生の中心選手たちは今夏の全日本学童(16強)でベンチ入りし、夢舞台のレベルや熱気を肌で感じている。
旗の台は登録23人で5年生が16人。チーム代表を兼ねる酒井監督(下)は10月で64歳に。昨年のジュニアマックは3回戦まで進出
そしてトーナメントのもう一方の山を、ぶっちぎりで勝ち上がってきたのは、旗の台クラブ。2回戦から準決勝まで4試合連続で2ケタ得点の大勝だった。そして迎えた決勝は、1年前と同一カード。このときは4対1で船橋が勝利している(リポート➡こちら)
見応え十分の初回攻防
それぞれのベンチの顔ぶれは、6年生チームとは異なる。それでも変わらぬハイレベルを強烈に印象づけたのは、1回の攻防だった。
先攻は新人戦2連覇中の船橋だ。佐藤優一郎主将の目の覚めるような先頭打者ホームランで先制すると、続く二番・柴原蓮翔はセーフティバントを敢行。一発直後の小技というアイデアもさすがだが、三塁線に転がるバントを完璧に捌いた左利きの三塁手・豊田一稀もお見事だった。
1回表、船橋は佐藤主将が先頭打者ホームラン(上)。続く柴原はセーフティバント(下)。重量打線のAチーム(6年生)とは異なる顔がいきなり覗いた
守る旗の台は、捕手の遠藤雄大主将も魅せた。先制されてなお、船橋の三番・中司慧太に中前打されるも、強肩で二盗を阻止。「セカンド(国崎瑛人)がよく捕ってタッチしてくれました」と、やや右に逸れた強い送球を処理した仲間を称えた主将は、この後も激戦の中での自然な笑みが印象的だった。
旗の台は軟投派の大野達貴が先発(上)。「第1試合に強くて、この子が投げると盛り上がる」と酒井監督。いきなり2発を浴びるも、盗塁阻止(下)にも助けられて初回を投げ切った
互いに、やられたら、やり返す!
盗塁失敗で二死無走者となった船橋だが、四番・高橋泰生が左翼線へのランニングソロで、リードを2点に広げた。そしてその裏の守りは、遊撃手・中司が背後の難しいフライを好捕して始まる。絶対的なエースの前西凌太朗は、続く打者を見逃し三振に。
船橋は四番・高橋にも一発(上)が出て初回に2点を先取。エース右腕・前西(下)は力強い球を投じた
しかし、旗の台の打線もしぶとかった。
「先に2点取られた後の攻撃が2アウトになって、ここで自分が塁に出ないとダメだなと思って、内野ゴロだったけど最後までしっかり走り切りました」
そう振り返った三番・国崎が内野安打で出ると、四番・大島健士郎が左中間へ同点2ラン(=下写真)。船橋の四番にも負けない外野への強い打球は、実は久しぶりだったという。
「手首の骨折が治ったばかりで、ぜんぜん打ててなかったんですけど、先に2点を取られちゃったので、ピッチャー陣を援護できるようにと思って打ちました」(大島)
決して速くはないが、全力でダイヤモンドを一周した大島。1回表の一塁守備では、捕れなかったものの、ファウルフライに身体ごと飛び込む場面もあった。
「いつもはのんびりしているんですけど、試合になると気持ちがどんどん出てくる」
酒井達朗監督からそう評される大島は、3回の第2打席では3対2と勝ち越しタイムリーなど、3打数3安打2打点と活躍した。
3回表、船橋は二死一、二塁から五番・佐々木暦望がセンターへ大飛球(上)。これを旗の台の中堅手・高市が俊足を飛ばして好捕し、右翼手の泉とグータッチ(下)
投げ合いの様相が一変
旗の台は三塁で先発したエース左腕の豊田が、2回からマウンドへ。船橋の右腕・前西と同じく、力強く安定したフォームが光り、試合は投手戦の様相に。
それが大きく動いたのは4回だった。
3回裏に1点を勝ち越された直後の船橋が、四球、犠打、前西の右前打で3対3に。さらに一番の佐藤主将のバットから、2本目の本塁打となる2ランが飛び出して5対3と試合をひっくり返した。
2回から救援して1安打に抑えていた旗の台・豊田(上)から、船橋の佐藤主将が1試合2本塁打目となる2ランを左中間へ(下)
先制された初回と同様、逆転されても下を向く選手は旗の台にはいなかった。ジタバタもカッカもせずに、ベンチでドンと構える酒井監督からは、選手たちへの信頼の深さもうかがえた。
「ホントは私もドキドキなんですけどね(笑)。千葉、埼玉、茨城と、相当に強いチームとやらせてもらって準備はしてきましたし、ビハインドの展開も慣れているので」(同監督)
打者11人で再逆転
2点を追う旗の台は4回裏、八番・米田然の内野安打から反撃スタート。高く弾むゴロを打っての全力走で出塁した米田は1年前の決勝では、大発声の三塁ベースコーチとして先輩たちをサポートする姿があった。
4回裏、2点を追う旗の台は米田(上)と泉(下)が内野安打。さらに一番・高市のバント安打で無死満塁とする
「絶対に先頭が出ないと逆転できないと思って、ヒットを打てるように追い込まれるまでは甘いコースを待っていました」(米田)
結果、2ストライクからクリーンヒットではなかったものの、一塁セーフを知るや派手にガッツポーズ。続く九番・泉春輝も同様に内野安打、さらに一番・高市凌輔が絶妙なセーフティバントを決めて無死満塁となる。
船橋の森重浩之監督は、たまらずタイムを取ってマウンドへ(=下写真)。「今の6年生たち(Aチーム)とは、チームの質が違い過ぎますので。この大会は打てているように見えますけど、たまたまで、基本的には守備のチーム。レベル的にはどこのチームとも変わらない子たちばかり」(同監督)
NPBジュニアを6人輩出した船橋Aチームの特異性は、誰もが認めるところ。Bチームはその模倣ではなく、守りをベースとしながらの大技小技で勝ち進んできた。しかし、この決勝では微妙な打球を思うようにアウトにできず。奮投してきたエース右腕も、痛恨の一打を浴びてしまった。
タイムが明けた直後。旗の台の二番・柳咲太朗が左越えの逆転満塁ホームラン。さらに国崎と大島の連打に四死球で8対5とダメを押した。
二番・柳の満塁ホームラン(上)で7対5と再逆転した旗の台ベンチは、マナー良くお祭り騒ぎ(下)
そして5回裏、殊勲打の柳が4打席目に立った時点で、試合は既定の90分が経過。審判団から両ベンチに「この打者で終了」が告げられた後、見逃し三振に終わった柳を、旗の台の選手たちがバンザイや飛び跳ねながら迎えて熱戦に幕が下りた。
船橋の3連覇を阻み、前年のリベンジも果たした旗の台は、4年ぶり2回目の優勝。新チームの先はまだ長いが、5年生の多くに涙があった。「この1年、新人戦優勝をみんなで目指して頑張ってきたので」(豊田)。
また前回優勝時(2020年)は、コロナ禍で関東大会は中止に。そのあたりも踏まえて、遠藤主将(=上写真)が粋なコメントで締めた。
「4年前の先輩たちの分もありますし、新人戦で負けていった東京のチームも何百とありますから、その分も背負って関東大会で優勝できるように頑張りたいです」
〇旗の台クラブ・酒井達朗監督「全部が普通のチームだったのが、成長の跡がはっきりと見えました。『どんな展開でも平気な顔してやるぞ!』と言い続けてきたことが、この大事な試合でできましたので、私もウルウルと…」
●船橋フェニックス・森重浩之監督「Aチームはミスしても、圧倒的な打力で挽回できましたけど、Bチームはそこまでの力もない。守備でしっかりと、やるべきことやれないとなかなか難しい。打撃も走塁も含めて、すべてが課題です」
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先輩たちに捧ぐ、逆転満塁HR
やなぎ・さくたろう
柳 咲太朗
[旗の台5年/左翼手]
6月の痛恨を忘れるはずがない。6年生主体のAチームは、勝てば全日本学童初出場となる都3位決定戦で敗北。5年生で唯一、六番・左翼で出場していたのが柳咲太朗だった。
2打数2安打でチャンスメイクするも、後続が倒れ、チームもまさかの完封負け。寺村俊監督(Aチーム)は、5年生たちに涙で想いを託した。柳はこのように激励されたという
「チャンスで1本打てるようになれ!」
5年生主体のBチームの新人戦で、見事にその言葉にも応えてみせた。
3回裏の第2打席で左前打を放ち(=下写真)、暴投と内野ゴロで三進。そして四番・大島健士郎のテキサス安打で一時勝ち越しのホームを踏んだ。そして3対5と逆転された直後の4回裏、絶好の場面で右打席へ。
無死満塁。初球ストライクから3球続いたボール球まで、ノースイングの二番打者に、バントやエンドランなどの気配はなかった。最高の打者が二番に入ることもあるのが現代野球。Bチームの酒井達朗監督が、柳をそこに置いた理由もそうだという。
「柳は上でも鍛えてもらいましたから」(同監督)
カウント3ボール1ストライクで迎えた5球目。押し出しを狙うような素振りもなく、速球をジャストミートすると、白球はあっという間にレフトの頭上を超えていった。柳は長駆生還して逆転満塁ホームラン、これが決勝打となった(=下写真)。
「負けていて満塁だったので絶対に1点を取ろうと思って、チームバッティングをする感じで打ちました。めっちゃ、うれしいです」
打つだけが柳の仕事ではない。内外野を守るユーティリティ性があり、マウンドに立てば95㎞を投じる。決勝は未登板も、準々決勝ではノーヒットノーランの快投を演じた。
「関東大会ではチームを助けるプレー、勝ちに貢献するプレーをしたいです」
145㎝36㎏の頼れる5年生は、まだまだ伸び盛りだ。
―Pickup Hero❷―
6年生とは異質の“衝撃”。134㎝の弾丸
さとう・ゆういちろう佐藤 優一郎
[船橋5年/捕手]
夏の全国舞台でも圧倒的なサイズとパワーを披露した、6年生たちにも匹敵する“衝撃”だった。
134㎝37㎏の身体を折り畳むようなクラウチングスタイルから、火の出るような鋭い打球を飛ばすのだ。それも1度ならず、何度も。短く持ったバットで打ち返す方向も、右に左に中央と偏りがない。さらに足も速く、計測したのは相当前だが50m走のタイムは7秒8だという。
「ここ2試合、フライアウトが続いていたので、バットをコンパクトに出してライナー性のヒットを狙う意識でした」
こう振り返った佐藤優一郎主将は、右打ちのトップバッター。右中間への先頭打者ホームランに始まり、第2打席で中前打、そして4回表の第3打席は一時勝ち越しとなる2ランを左中間へ。3打数3安打の2本塁打3打点と、文句なしの活躍だった。
やはり、打つだけが仕事ではない。扇の要で守りを統率。6年生にも匹敵する強肩がまた圧巻だ。イニング前の二塁送球は、適切にステップを踏めば、もっと省タイムで強いボールがいくはず。だが、佐藤はあえて動作を停め、力を貯めてから投げていたという。
「相手に盗塁されたくないし、それでピッチャーも気持ち的に楽にさせてあげたい。自分でもまずは良いスローイングをして始めたいというのがあって」
結果、決勝は相手の盗塁企図がなかったのだから、思惑通り。しかし、チーム全体として守りに課題が残った。微妙な打球をなかなかアウトにできず、逆転負け。ヒーローになり損ねた主将に笑顔があるはずもなかった。
「この大会は前西(凌太朗)クンが、ずっと投げ続けてくれて、みんなで打ったりして決勝まで来れましたけど、今日はエラーとか弱点が出てしまいました」
それでも、可能性を十分に示した大会でもあった。来年夏の阿波おどりカップの出場権も手にしている。
「阿波おどりカップで優勝するために、めっちゃ練習して、マック(全日本学童)の予選も優勝して全国大会に全部出たいなと思います」